白金の虚像

初めて彼女を見たのはいつだったか。
見た。
眺めた。
目にした。
そう。
目にしたのは、あれはいつの出来事だったか。

夏だった。
拭っても拭っても滴り落ちる汗の間から目にした、美しい少女。
遠くで蝉が鳴いていた。
随分遠くに鳴き声が聞こえた。
彼女のいる空間だけが、ぽっかり切り取られたように、外の暑さと無縁だった。
じじじじ、と羽を震わす。
耳障りなその振動さえ気にならなかった。
銀の髪が射しこむ陽光を受けて、きらきらと輝く。
天を仰ぐ向日葵よりも艶やかに輝く。
それで全て。

「――――」
呼ばれた。
何と言われたのかは分からない。
けれども呼ばれていた。
横を見る。
母が遠くで呼んでいた。
視線を元に戻す。
少女は何も聞こえていないのか、必要がないことを知っているのか、ぴくりとも動かない。
否。
私と彼女の間は遠い。
そもそも、声など届いてすらいないのか。
そう。
二人の間には絶対の距離があった。

「―――っ」
再び呼ばれる。
少し苛立ちの混じった口調。
それに私は応えた。
口を開く。
言葉を紡ぐ。
何を。
何と答えたのだったか。
忘れた。
ああ、そんなことはどうだっていいのだ。
ただ母は顔をしかめて口唇を動かすと、あっさり身を翻して、歩きだした。
すたすたと。
私が付いてくるのを当然のこととして。
だから追いかけた。
追いかけなければ追いていかれるから。
最後にもう一度。
私は彼女を見た。
視界に映す。
窓ガラス越しの陽光がきらきらと波打つ姿を焼きつける。
網膜に。
水晶体を通して結ばれる点が線を成す。
線が重なり図形を描く。
彼女の姿を一部始終洩らさぬように、強く、強く、焼きつけた。