白い夜

見上げた南の空には白い月。
足許を照らす街灯よりも明るい真白な光に目を細めた。
サンダル履きの爪先から伝わる冷気が体温と鬩ぎあい、じくじくと皮膚を苛む。
二日と半日降り続けた雨は、とっぷりとコンクリートに染みわたり、雨が上がって数時間が経過して尚、地面は色濃く変色したままだった。
かちかちと歯が鳴る。
初めて、そこで気がついた風に足を止めた。
こつん。
コンクリートの欠片か、小さな小石が爪先に当たって転がっていった。
じん、と軽く痺れたような感覚が爪先に残る。
一瞬の後には、それは何もなかったかのように失せる。
そして。
微かに響いた音だけが、やけにはっきりと耳の奥に残った。

寒い。

ああ、寒いんだ。

誰に伝えるわけでもなく、一人呟いた。
口唇から吐き出された薄白い吐息がその言葉を肯定する。
纏わりつくような夜闇に吐き出した吐息は消えていく。
隣を歩いていた人はもういない。
つい数日前までは、二人並んでいた道がこんなに広かったことに一人になって初めて気づいた。

一人になって……。

なんてありふれた安っぽいフレーズ。
心の中で毒づいてはみたものの、口唇から零れたのは、力のない溜息が一つ。
零れた傍から、闇に呑みこまれる。
一筋の白は、あっという間に溶けたように消え失せた。
まるで、コーヒーカップに垂らしたミルクのよう。

いっそ。

いっそのこと、私の身体ごと溶かしてくれたらいいのに。

けれども、足許から這い上がる冷気は、凍りついた想いをさらに強固なものに変えるだけで、溶かすことなどありえない。
上着の先。
頼りなげに揺れる指先。
久しく忘れていた、繋ぐ相手のいない寂しさが指先から腕を手繰って全身へと染みわたる。




冬が、すぐそこまで近づいていた。